皆さんは亀戸にどのようなイメージをお持ちだろうか。毎週日曜日に歩行者天国となり大道芸人がパフォーマンスを披露する亀戸十三間通商店街や、ホルモンや餃子といった飲食店が軒を連ねる亀戸中央通り商店街に足を運んだことがある人なら、「下町情緒の残る活気のある町」と答えるのではないだろうか。
そんなイメージとは少し雰囲気が違う、商店街が亀戸にある。
それが、亀戸香取勝運商店街(以後、勝運商店街)。
昭和レトロな落ち着いた雰囲気「勝運商店街」
亀戸駅北口の蔵前橋通りにある香取神社の鳥居。一歩足を踏み入れるとそこに立ち並ぶ商店が特徴的なことに気付く。
画像の色味を調整すると、もはや令和の時代に撮影されたものとは思えないほど、昭和レトロな見た目をしているのだ。
この勝運商店街は、江東区で最も古い歴史を持つとされており、元々は隣接する香取神社の境内にある参道だった。それが明治時代に商店街として形成されたのである。
この商店街の成り立ちだけを聞くと、古くからある商店がその当時の雰囲気を残しているんだろうと思ってしまう。しかしそれは間違いで、この商店街が今のようになったのは平成23年のこと。わずか10年前の平成の時代に作り出されたものなのだ。
平成に生まれた昭和レトロな商店
「ここは、いわゆる寂れた商店街だったんですよ。それが10年ほど前に自治体からの補助金を受けて、今のように改築されたんです。」そう語ったのは、勝運商店街で青果店を営む坂本商店の店主。
改めて坂本商店の外観を見てみると、よくある立方体のテナントに店名を掲げただけでないことがわかる。
外壁正面に施された装飾によって、その建築物全体が坂本商店という青果店を知らしめる屋外広告としての役割を担っているのだ。このように建物の存在自体が看板になっている建築物を「看板建築」と呼ぶ。勝運商店街にある商店は「昭和30年代の看板建築」をモチーフとして平成の時代に生まれたものなのだ。
そんな、芸術作品が立ち並ぶ勝運商店街には、昭和レトロな雰囲気を撮影しにカメラを持った人や、外国人観光客が時折やって来る。この日も、絵を描きに来ていた男性と偶然居合わせたので、声をかけてみたところ建物肖像画人として個展を開催する鈴木信之氏という人物だった。
制作途中の建物肖像画。サインペン一本で緻密に描き上げている。
鈴木信之氏は「看板建築という言葉は、建築家の藤森照信氏が命名したもの。この商店街にある建物は(再現したものかも知れないが)看板建築として大変素晴らしい。」と語る。
「ただの町家(昔ながらの店舗併設住居)の正面部分を銅板などで覆って装飾したものも看板建築と呼ばれてしまうんですが、そうしたものは商売を辞めたりして銅板の文字や看板を剥がしてしまうと、どこにでもあるただの古い建物になってしまうんです。」
「私はそれでは、看板建築とは呼べないと考えます。」
「ここにも、そういった建物(閉店や新築されてしまったもの)はありますが、現役で商売を続けていてしっかりと看板建築と呼べる建物が何店舗も残っているんです。こういう場所はとても珍しいんですよ。」
商店街一体で生み出した統一感
昭和30年代の看板建築をモチーフにした勝運商店街の商店。
しかし、それぞれの外観はレトロ調でこそあるものの、色味やデザインが統一されているわけでない。
それにもかかわらず、勝運商店街に入ると覚える統一感について、亀戸アートセンターの館主、石部さんが教えてくれた。
「勝運商店街で、まず目につく統一感。デザイン自体は商店ごとに自由なものですが、細かいもののディテールや色は全部一緒なんです。これが勝運商店街全体としての昭和レトロを生み出しているんだと思います。」
通りにかかる看板や街灯、ベンチ、プランターなど、小物のデザインを合わせることで、それぞれ異なる商店に統一感を持たせているのだ。
「若い人からすれば、レトロって、すごく斬新なんです。でも当時を生きていた人にとっては、人生の懐かしい思い出を味わえるものなんですよね。勝運商店街は、この亀戸に住む色々な人たちが心地よさを感じる場所だと思います。」
下町情緒あふれる賑やかさの中に、昭和レトロな落ち着いた雰囲気も同居する亀戸。アートな視点から町を見ることで、また違った亀戸の奥深さを知ることができた。
Edit by カメイドタートルズ編集部